雨漏りによる修理・改良の経理処理は資本的支出や修繕費が適用されます
法人所有の建物では、屋根や外壁の雨漏り修繕にかかった費用も経費として認められますが、工事の内容によっては、その年の経費ではなく「資本的支出」として、かかった雨漏り修理費用を減価償却する必要があります。そのため工場や倉庫をお持ちの法人様やマンションやアパートを経営するオーナー様の頭を悩ませるのが「今回行った雨漏り修繕は経費に分類されるのか?それとも資産なのか?」という点ではないでしょうか。
「雨漏り修理をしたけど、減価償却すべきか判断できない」という方や、「そもそも、雨漏り修理にかかった費用を経費にするときの科目がわからない」とお悩みの経理担当者、賃貸物件オーナーの方が実際に多いようです。
そこで当ページでは法人の建物や事業用物件、アパート・マンションで雨漏り修理をする際に知っておきたい「修繕費」と「資本的支出」の違いについて解説致します。
またどんなときに雨漏り修理費用を減価償却するかといった判断のポイントもわかりやすく解説致します。
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目次【表示】
法人所有建物の雨漏り修理費用は資本的支出と修繕費に分かれる
工場や倉庫然り、また会社のオフィスとして使っている建物や家賃収入を得ているアパートやマンションも然りですが、居住用の住宅と同様に経年劣化や不具合によって雨漏りが起きてしまうことがあります。
しかし居住用の住宅と違い事業用物件で雨漏り修理を行った際には発生した費用を帳簿に記録する必要がありますよね。
このとき多くの人が「会社の建物を修理するためにかかった費用なので、経費で落とせるのでは?」と思うのではないでしょうか。確かに「修理の内容」や「金額」によっては雨漏り修理にかかった費用を、その年の経費とすることが可能です。
しかし内容によっては設備投資や車などの資産と同様に雨漏り修理費用も「減価償却」する必要があるのです。減価償却について理解しておきましょう
減価償却とは、事業用の資産を購入した際に、「法定耐用年数」にもとづいて、購入価格を数年にわけて経費として計上することですよね。それくらいは知っているという方がきっとほとんどではないでしょうか。
減価償却の対象となるのは、事業用に購入した設備や自動車、工具、建物といった資産です。これらの資産を購入した場合は、原則として購入価格を一度に経費にはできず、数年にわたって減価償却をしなければなりません。
例えば200万円の自動車を購入した場合、自動車の法定耐用年数は6年(普通自動車の場合)ですので、200万円を6年間で計上することになります。
どんな資産でも、購入後、年月の経過とともに価値が減少していきますので、下がった価値(=原価)を経過年数に応じて経費とするというのが、減価償却の考え方です。
建物は資産なので修理費用も資産扱いになることがある
「資産」というと「車や建物自体といったような形として存在するもの」というイメージのある方も多いでしょうから、工事そのものが資産扱いになるという話を聞くと「初めて聞いた」という方も多いかもしれませんね。そして「資産」に該当する雨漏り修理費用は「資本的支出」として減価償却をしなければなりません。
仮に、雨漏り修理に200万円かかり、資本的支出とみなされた場合は、200万円を一度に経費とできず、減価償却することになります。
なお、雨漏り修理やリフォーム費用は自動車や設備といった他の資産と違って法定耐用年数が定められていません。そのため雨漏り修理費用について減価償却の計算をする際は修理を行った「建物」の耐用年数が適用されます。
例えば、「RC造の事業用建物」は法定耐用年数が50年ですので、資本的支出となった雨漏り修理費用は、50年かけて減価償却を行います。
一方、資産とみなされなかった雨漏り修理費用は、「修繕費」に分類されるため、その年の経費として一括で全額計上することができます。
雨漏り修理費用が資本的支出と修繕費のどちらに該当するかによって、翌年支払う税金や収支バランス、決算書の内容なども大きく変わってしまうことになりますよね。
そのため経理を担当する方においては雨漏り修繕を行う前に実施しようとしている工事が資本的支出なのか、それとも修繕費なのか予測できるようになっておくと良いですよね。
資本的支出と修繕費の違いとそれぞれの具体例
資本的支出とは
●固定資産の価値を高めた
●耐久性を増した
と認められるもの
雨漏り修理における「固定資産」とは修理を行った建物のことです。
資本的支出に分類される雨漏り修理の例としては、以下のようなケースが考えられます。
雨漏りで外壁や屋根全体が傷んでいる場合は、外壁材や屋根材を新しいものに交換するリフォームが行われることがあります。このようなケースでは、修理前よりも建物の耐久性を高めたとみなされるため、資本的支出の雨漏り修理と判断されます。
また、雨樋にも排水能力や腐食しにくい素材などグレードの違いがありますのでリフォームによって既存の雨樋よりもグレードがアップした場合は、資本的支出に含まれると考えられるでしょう。
そのほか雨漏り修繕も兼ねて、建物そのものを改築した場合も資産の価値を高めたとして資本的支出と判断されます。
修繕費とは
●通常の維持管理のため
●原状を回復するため
に要したと認められるもの
修繕費の定義に該当する雨漏り修理の例としては、以下のようなケースが挙げられます。
修繕費かどうかは、「元の状態に戻したかどうか」でも判断することがあります。
瓦の部分交換やシーリングの打ち替え、板金の交換といった劣化箇所を元に戻す工事は、「建物の維持管理」または「原状回復」の範囲内ですので「修繕費」とみなされると考えられます。
さらに、雨漏り修理も場合によっては、価値を高めたかどうかにかかわらず修繕費とみなされるケースもあります。修繕費として処理されるケースを、以下で確認しておきましょう。
こんなケースでは雨漏り修理が修繕費として認められています
少額かつ周期的に行なっている雨漏り修理
雨漏り修理が少額かつ短い周期で行われている場合は、定期的なメンテナンスとみなされるため「修繕費」に分類されます。これを「少額または周期の短い費用の損金算入」と呼びます。
修理費用が20万円未満
一般的な認識や実績から鑑みて3年以内の周期で行われるような性質の修理・改良
上記いずれかに当てはまる雨漏り修理であれば、修繕費としてその年の経費にすることが可能です。
そのほかの修繕費として認められる例
修理費用が60万円未満
修理費用が、固定資産の「前期末での取得価格」の約10%以下
さらに、
- 修理費用の30%相当額
- 固定資産の「前期末での取得価格」の10%
のうち、いずれか少ない金額を「修繕費」とし、残りを「資本的支出」として継続して処理している場合は、この経理方法が認められます。ただし、明らかに資本的支出であると判断できるケースでは、この特例は適用されません。
<被災による雨漏り修理の特例について>
災害で破損した屋根や外壁、雨樋などを修繕する費用は、原則として「修繕費」として扱われます。
ただし、「台風で雨樋が壊れたけれど、同じ雨樋がないためグレードの高い雨樋で修繕せざるを得なかった」「災害で壊れた部分の原状回復だけをするはずが、外壁や屋根の経年劣化が想像以上に激しく、外装全体を補修することになった」などのように、資本的支出か修繕費か判断しかねるケースでは、
- 修理費用の30%→修繕費
- 残額(70%)→資本的支出
という計算が適用されます。
雨漏り修理が資本的支出か修繕費か判断するときのポイント
資本的支出と修繕費は、このようにご紹介した判断基準で分けることができますが、両者を分ける明確な基準は存在しません。そのため、資本的支出と修繕費の区別は税務の専門家でも悩むことがあります。実際に資本的支出か修繕費かを巡っては裁判に発展したケースもあるほどなのです。
また、雨漏り解決のための修理方法には板金の交換といった数万円できるものから、外壁の張替えなど200万円を超えるようなものまであります。
「200万円を経費にして節税できると喜んでいたら、減価償却が必要と言われて全額を経費にできなかった」などの誤算を招かないように、資本的支出と修繕費を判断するためのポイントを押さえていきましょう。
まずは「20万円未満」かどうかが最初の判断ポイント
修繕費か資本的支出かを分ける最初のポイント
少額または周期の短い費用に該当する雨漏り修理は、資本的支出の条件を満たしていても「修繕費」として計上することができます。
雨漏り修理費用が20万円未満であれば、少額費用とみなされ、修繕費として計上することができます。さらに、修理費用が20万円を超えても、3年周期で行う必要のあるメンテナンスであれば、「周期の短い費用」とみなされますので、修繕費として計上が可能です。
雨漏り修理費用が「20万円未満」「3年周期のメンテナンス」のどちらにも該当しなかった場合は、原状回復(修繕費)か価値を高めたか(資本的支出)を区別するステップに進むことになります。
なお少額の工事のみが修繕費とみなされ、高額な雨漏り修理工事が必ず資本的支出に当てはまるかというとそうではありません。
金額が一千万円を超える雨漏り修繕でも「修繕費」と判断された事例はあり、過去の裁決でも「資本的支出と修繕費との区分は支出金額の多寡によるのではなく、その実質によって判定することと解される」と示しています。
判断をより確実なものにするため雨漏り修理前に税理士に確認を
資本的支出か修繕費かは実施した工事内容によって判断が異なります。
雨漏り修理の方法は、部分的なものから建物の広範囲に及ぶものまで多種多様です。屋根からの雨漏りでも、瓦を交換するだけで済む軽微なケースもあれば、屋根全体の防水工事をやり替えなければならない大規模なケースもあります。
間違った判断をしないためにも「この程度なら修繕費にしてもらえるだろう」と自己判断せず、少額の工事であっても税理士に工事内容を説明し、修繕費なのか資本的支出になる可能性があるか確認してもらうと良いでしょう。
また、リフォーム業者と交わす契約書や請求書の文言にも注意が必要です。
原状回復のための雨漏り修理にもかかわらず、書類に「屋根改築工事」と記載されていると、税務署から「建物の価値を高めた工事を行ったため資本的支出」とみなされる可能性もあります。税理士へ説明するときは、口頭だけでなく、リフォーム業者と交わした書類にも目を通してもらうことでより確実な判断となります。
雨漏りによる修理・改良の経理処理は資本的支出や修繕費が適用されますまとめ
法人所有建物の雨漏り修理費用は資本的支出と修繕費に分かれます
修繕費は「全額その年の経費として一括計上」でき、資本的支出は「数年に分けて減価償却」します
修繕費とは「建物を健康な状態に戻すためにかかった費用」、資本的支出とは「建物の価値を高めるためにかかった費用」と言えます
行った雨漏り修理が「資本的支出」か「修繕費」か区別する最初のポイントはかかった費用が20万円未満かどうかです
20万円を超える場合でも3年周期で行うようなメンテナンスは修繕費として計上可能です
確実な判断を仰ぐために修理前に税理士に相談するようにしましょう